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リファラルマーケティング

紹介報酬を出すなら、価格は「下げる」のが正解?(2回目)

2026-06-23

被紹介者の成約率を考慮した「量と質」の最適化モデル

本記事は、論文『Customer Referral Management: Optimal Reward Programs』に基づき、紹介キャンペーンの設計を最適化するための理論的枠組みを解説する連載の第2回目です。

前回は、顧客の「感動閾値(D)」に応じた3つの基本戦略について解説しました。第2回となる今回は、紹介された友人(被紹介者)側の視点を取り入れます。紹介経由の顧客が実際に「成約(購入)」に至る確率は、価格や報酬の設計によってどう変動し、企業の利益最大化にどう影響するのか。そのメカニズムを解き明かします。

なお、なぜ「報酬を出すなら価格を下げる」ことが数学的な正解となるのかという深い数理ロジックについては、次回の第3回で詳しく扱います。

紹介の「量」だけでなく「質」を左右する変数

リファラルマーケティングの成果を予測する際、多くの企業は「既存顧客が何人紹介してくれるか(量)」に注目しがちです。しかし、本研究が提示する内生的モデル(Endogenous Model)では、紹介された側が実際に顧客になる確率、すなわち「紹介の質(成約率 α)」を重要な変数として組み込んでいます。
この成約率 α は固定値ではなく、企業のコントロール可能な2つのレバーによって動的に変化します。

被紹介者の意思決定に影響を与える2つの要素

・提供価格(P):被紹介者が購入を決定する際の直接的なコストです。価格が低いほど、紹介を受けた際の成約率は高まります。
・紹介報酬(R):一見、被紹介者の意思決定には無関係に思えますが、報酬が紹介者(既存顧客)の熱量や推奨の仕方に影響を与え、間接的に被紹介者の成約意欲を左右する可能性があります。

内生的モデルにおける「3つのゾーン」の普遍性

被紹介者の成約率が価格によって変動するという複雑な条件を加味しても、第1回で解説した「感動閾値(D)」に基づく3つの戦略フェーズの順序は維持されることが証明されています。

1. 「低価格のみ」から始まるフェーズ

感動閾値が低い市場では、引き続き「低価格による新規獲得+自然な口コミ」が最も効率的です。被紹介者にとっても低価格は強力な購入動機となり、成約率 α が高水準で維持されるため、追加の報酬コストを支払う必要がありません。

2. 「価格と報酬のミックス」への移行

閾値(D)が上昇し、自然な口コミが減り始めると、紹介報酬(R)を導入するフェーズに移行します。このとき、内生的モデル特有の興味深い挙動が見られます。
被紹介者を成約させる難易度が高い(=納得させるためのコストが高い)市場では、紹介者に支払う報酬を増やすことで、より強力な推奨を促す必要が生じます。この際、利益を確保するために「価格を(下げるのではなく)わずかに上げる」力が働く場面があることも、本研究では示唆されています。

3. 戦略放棄のフェーズ

閾値がさらに高まり、紹介者の「紹介コスト」と被紹介者の「納得コスト」の双方が高くなりすぎると、どのような価格・報酬設定を用いても紹介経由の利益が単体利益を下回ります。ここで紹介施策を停止する判断が必要になります。

意思決定者が注視すべき「成約率の感度」

BtoBマーケティング担当者が実務に落とし込む際、特に重要となるのが「自社の商品は価格に敏感か、紹介の質に敏感か」という視点です。
本モデルの示唆によれば、紹介された側の成約率(α)が価格に対して非常に敏感である場合、企業は「報酬を高くして紹介を促す」よりも「価格を抑えて成約率を維持する」戦略を優先すべきです。
逆に、価格よりも「知人からの信頼できる推奨」が成約の決定打となるサービス(専門性の高い商材など)では、報酬を厚くして既存顧客に「質の高い紹介(適切なマッチング)」を促すインセンティブを設計することが、LTVの最大化に寄与します。

FAQ

被紹介者の成約率が低い場合、報酬額を上げるべきですか?

一概に報酬を上げれば良いわけではありません。成約率が低い原因が「価格が高すぎて被紹介者が躊躇している」場合、報酬を上げても紹介の「量」は増えますが「成約率」は改善せず、ROIが悪化します。その場合は、報酬を据え置くか削ってでも、被紹介者向けの初回割引(価格Pの調整)を優先すべきです。

紹介者と被紹介者、どちらにインセンティブを寄せるべきでしょうか?

本研究のモデルでは「紹介者への報酬(R)」を主軸に置いていますが、実務上の「両方へのインセンティブ」は、価格の引き下げ(P)と報酬(R)の組み合わせとして解釈できます。被紹介者の成約率を確実に上げたいのであれば、紹介者への報酬以上に「被紹介者への直接的なメリット(低価格の提示)」が数理モデル上も強力な武器となります。

まとめ

第2回の解説では、紹介キャンペーンの設計には「紹介者の動機(量)」と「被紹介者の納得(質)」の両輪が必要であることを確認しました。

・成約率(α)は価格設定によって変動する。
・市場の感動閾値が上がると、価格と報酬の最適なバランスも変化する。
・「量」を追うための報酬と、「質」を担保するための価格のトレードオフを管理することが、マーケターの役割である。

次回の第3回では、多くのマーケターが直感的に受け入れがたい「報酬を導入するなら、なぜ価格をさらに下げるべきなのか」という、本論文の最も核心的な数理メカニズムについて深掘りします。


※スライド内の『D』『P』『R』『α』という表記について、変数は数理モデル上の指標を示しています(D:感動閾値、P:価格、R:紹介報酬、α:被紹介者の成約率)。

【参考文献・出典】
Eyal Biyalogorsky, Eitan Gerstner, Barak Libai (2001). Customer Referral Management: Optimal Reward Programs. Marketing Science 20(1):82-95.

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著者の紹介

廣見 剛利

20代の頃から、営業会社の組織を率いるかたわら、営業の重要性を認識しながらも、営業の限界について自問自答をし続ける。30代でCRMとSFAに出会いその限界を打破する光が見えつつも、変革しなければならないプロセスの多さに愕然とする。 40代に入りマーケティングオートメーションと出会い、見込み客獲得から、見込み客教育、商談化のプロセスの自動化について体現する。商談化前が自動化されることにより、商談後の生涯顧客価値を最大化させるプロセスの見える化、見える化による再現性のある営業組織づくりを実現。同じ悩みをもつ日本企業の解決策を提供すべく、マーケティングデザインを設立。



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